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【鼎談メモ】mstdn.jp管理人"ぬるかる"×ニジエ管理人"らんち" 表現規制とMastodon、そして大規模インスタンスのゆくえ

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※ この記事はMastodonとmstdn.jp、そしてニジエを知っている方向けに書いています。

ここ2週間、ネットはMastodonの話題で持ちきりだ。mstdn.jpの登場以降、それぞれピクシブがPawoo、ドワンゴがfriends.nicoのインスタンスの運営を開始し、国内CGM(Consumer Generated Media、サービス利用者自身がコンテンツを投稿するメディア)企業の参入が相次いでいる。 そして4月21日、mstdn.jpの管理人ぬるかる氏のドワンゴへの内定が発表されると、親会社のカドカワが「マストドン」関連株として急伸するなど、世間のMastodonへの注目度の高さが伺える。

4月23日に筆者とmstdn.jpの管理人ぬるかる氏、そして前述の2社と「イラスト投稿SNSを運営している」共通点を持ちながら、インスタンスの設置は行わないと言うニジエの管理人らんち氏の3名でMastodonに関する議論と考察を行ったのでここに要点を書きたいと思う。

参加者

  • ぬるかる: 世界最大のMastodonインスタンスmstdn.jp 管理人。筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科1年生。5月からドワンゴへの入社が決まった。
  • らんち: 株式会社ニジエ 代表取締役。イラスト投稿SNSニジエの管理人。彼の書くユニークなメールマガジンは毎回ユーザーの話題となる。取材や記事での露出は本邦初。
  • なるがみ: 筆者。同人作家。元ドワンゴ ネット創作支援部グループリーダー。ドワンゴを退職後DMMで亀チョクをやったり漫画家向け確定申告サービスを作った。

筆者とぬるかる氏は、WORD編集部という筑波大学のサークルで先輩と後輩にあたり、今回彼を前職のドワンゴに紹介した。らんち氏は家が隣という理由で仲良くなった。

Mastodonの話は正味25分

鼎談は当初1時間を予定していたが、初っ端からぬるかる氏の好きなアニメに挙げたマイリトルポニーにらんち氏が興味を示し、時間の大半をMastodonではなくケモナー議論に費やす結果となってしまった。ケモノの複雑な分類とケモナー界の比較文化論で盛り上がった。ぬるかる氏がMastodonという単語を知ったのも、けものフレンズがきっかけらしい。
本記事では、Mastodonの用語や機能、mstdn.jpの設立経緯についてはITmediaの記事でぬるかる氏が応えているので省略する。

なぜMastodonは使われるようになったのか

なるがみ 世界一のインスタンスを運営するぬるかる君に聞いてみたかったんだけれど、Mastodonがなぜ使われるようになったと思う?

ぬるかる うーん……。世界一と言っても試しに設置してみたら人がめっちゃ来たというだけで、あまり深く考えたことがなかったです。技術者界隈で言えば、Twitterに対して広告やAPI制限などで不満を感じている人が少なくなかったと思います。それらを解消するサービスは望まれていたかもしれません。

らんち 技術者以外のネットユーザーも、Twitterに限らずSNS全般に不満というか息苦しさを感じているかも。現実社会と同じで人間関係のしがらみができてしまった。Twitterではフォロワーに気を遣って発言したり、Facebookはリア充アピールの場になっている。Mastodonは分散型のメリットを活かして、しがらみができれば彼らがいないインスタンスに移住できるメリットがあるんじゃないかなぁ。

なるがみ なるほど。技術者とネットユーザーの両方に潜在的な不満があったと。登録者数が急増したのはメディアの報道も関係していると思うんだよね。分散とか小難しいことを抜きにして「ポストTwitter」として説明しているニュースも少なくない。ニュースサイトやAbema TVの件でかなり人が増えたんじゃない?

ぬるかる 2回のサーバーリセットでログがもう残っていないので、どの時期にどれくらい増えたのかはもう分かりません(笑)

SNSでの作家の相次ぐ凍結は要因足り得るか

なるがみ 2人はよく知っていると思うけれど、同人界隈ではつい最近、TwitterやEntyで成人向けイラストを描く漫画家やイラストレーターのアカウントがまとめて凍結される事態が起きた。成人向けコンテンツの規制基準は国によって違うから、日本のセーフな範囲で発表していた彼らも海外の基準で消去されてしまったのだと思う。その直後にMastodonが紹介され「規制の緩いTwitterっぽいものがあるらしいぞ!」と作家さんやそのファンが避難所としてアカウントを作成する様子を見た。彼らがアーリーアダプターの中で結構な割合を占めていると思うんだよね。

ぬるかる あると思います。Pawooが海外インスタンスから連携を切られた件(Pawooにアップロードされた成人向けイラストが原因)では、海外インスタンスの方が「こっちの国では日本の成人向けコンテンツのリンクを貼っただけでも違法になる」と説明していました。リンクの問題は日本も無視できない問題だと思います。

らんち 日本でも、国内では違法に当たるコンテンツのURLをシェアしたりリツイートして捕まった人がいたよね。何が幇助になるかは難しいところだね。

なるがみ 友達の作家さんがMastodonのことを「ちょっと不便な別荘」と言っててしっくりきた。作家さん達は機能面ではTwitterで満足していたけれど、サーバーのある場所がまずかったんだなって。でも、コンテンツの配信国と受信国の規制のギャップは逆もまた然りで、カリビアンコムの事件では、海外では合法な無修正のコンテンツが海外サーバーで配信されていても、国内で視聴可能かつ国内で製作された場合には、製作者はわいせつ電磁的記録等送信頒布罪の幇助に問われる可能性があるらしいね。

ぬるかる mstdn.jpの運営方針として、放置することでインスタンスの存続が危うくなるコンテンツに関しては申し訳ないですが消さざるを得ないです。日本の法律に反しない範囲でmstdn.jp内の表現の自由はしっかりと守っていくつもりです。

らんち ぬるかるさんは学生とは思えないぐらいサービス運営者としてしっかりしてるね……。

インスタンスの運用と存続

なるがみ ところで、各インスタンスの登録者数情報を見ると、登録者数が1万人を超えるインスタンス全5つのうち3つが日本。これは「ポストTwitter」報道や「とりあえず一番人数が多いインスタンスにしておけば無難」という日本人に多そうな心理が作用していそう。Mastodonは本来、テーマやコミュニティやもしくはそういうものがなくても、誰でも自由に運営して、インスタンスが分散して存在する状態を想定している。日本がこれほど一極集中している現状は海外からはどう見られているの?

ぬるかる 開発者の方ではないのですが、Mastodonコミュニティの方から「ひとつのインスタンスがメジャーになることは好ましくないと思う」という意見が英語で送られてきたことがありました。mastodon.social(登録者数世界3位のインスタンス)が新規登録を停止しているのは、負荷の問題だけではなくて、一極集中は本末転倒だよねという趣旨があるらしいです。

なるがみ mstdn.jpも新規募集を停止したことはあるの?

ぬるかる あります。インフラのキャパシティの問題で新規登録を停止しましたが、個人ではいろいろ運営に限界を感じてしまって、インスタンスの終了も視野に入れていました。でも、5,000円くらい入れば良いかなと思っていたEnty経由の支援が予想以上の額になっていて、辞めるに辞められなくなってしまい……。

らんち 分かるわ〜!ニジエも最初は個人運営だったんだけど、想定以上にユーザー数が増えて手に負えなくなっちゃってサービスを終了しようとした時期があったよ。そんな時にAmazonの500円のギフト券と一緒に「がんばってください。こんなことしかできないですが応援しています。」ってメッセージが送られてきて続けようと決心したんだ。

他企業の参入の可能性は?

なるがみ らんちさんはこっそり小さく運営するのが好きだよね。ニジエはインスタンス立てないの?ニジエドンの登場をどの作家さんも心待ちにしてるよ。

らんち 名前は親子ドンとか?ニジエが立てない理由はいろいろあるよ。検証も兼ねて個人的に趣味のインスタンスを運営してみたら維持にかかる費用が結構高い。うちは弱小だから、もしニジエの関連サービスとして設置すると費用で本体ごと死んじゃう。
他にもニジエの設立経緯が関係しているかも。元々ネットの片隅で「こういうサービスが欲しい」って住民達の願望があって、みんなそれを言うけど誰も作らない。それで自分が、と作ってみたのがニジエ。今度は別の人に作って欲しいなって気持ちがある。

なるがみ へぇ経緯は知らなかった。個人的にインスタンスを立ててみた感想は?

らんち とにかくユーザーがかわいい!ユーザーが増えすぎると誰が誰だか分からなくなるけど、数百人規模だと追うことができて「あっ!この人またトゥートしてる」とか「お仕事大変だったね!お疲れ様」とか見守りたくなる。もちろんニジエにいる72万人のユーザーも愛しているよ。技術的にはQiitaとか日本語のノウハウが少なくて大変だった。まだまだ設置の敷居は高そうかなぁ。

なるがみ ニジエ以外にも検証や検討をしている企業はたくさんありそう。2人は今後どんな企業がMastodonインスタンスを運営すると思う?

ぬるかる うーん……難しいですね。ニッポン放送がTUNERというインスタンスを運営していますが、ニッポン放送ってTwitterでもかなり早い段階からアカウントを作っていたのを思い出しました。ネットの文化に詳しい人がいるのだと思います。テレビやメディアの企業は今後インスタンスを作りそうですが、とはいえ、Twitterが流行した時にTwitterクローンの独自サービスを運営して失敗した企業が結構ありました。そういう企業は今回かなり慎重になると思います。

らんち 個人的にはDMMが作るかどうかが気になるなぁ。DMMが作るとしたら、DMMが運営するサービスでは初のECサイトではないSNSというかCGMじゃない?

なるがみ 確かに。僕はクックパッドが作りそうな気がする。Mastodonの開発言語であるRailsのノウハウがある企業だし、料理というテーマのあるインスタンスを立てやすい。

大規模インスタンスの住み分け

なるがみ 現時点だと国内の企業が運営するインスタンスはPawooとfriends.nicoが人数多いよね。2人はなぜその2社が率先してインスタンスを立ち上げたと思う?

らんち ユーザーの囲い込みとか?

ぬるかる うーん……。難しいですが、Mastodonで収益を上げるのが無理なのはよく分かるので、慈善事業やそれに近いものじゃないでしょうか。

なるがみ 僕も囲い込みの意味が強いと考えている。もちろん公開ミラーサーバーのような公益的な側面もあると思う。根拠のない個人の感想だけど、両社とも自社のCGMで抱えていた作品やユーザー同士の交流がTwitterに流れていた。ピクシブは、完成度の高いイラストの露出が増えたり、クライアントが見るポートフォリオとしての側面が強くなっちゃって、昔みたいに気軽に落書きやネタ絵を投稿できる場ではなくなりつつある気がする。ニコニコも、クリエイターとクリエイター、ファンとファンの交流を支える場所がなくて、動画製作者同士の交流やコラボレーションの相談はTwitterで行われていた。これらを取り戻すための戦略なのかなぁ。現時点ではどちらも設置されたばかりで分からないけれど。

らんち mstdn.jp含めて3つはテーマのない大規模インスタンスだけど、ユーザーの住み分けはうまくできそう。インスタンスごとの空気が既に違うよね。

ぬるかる ですね。集団で大量の人が同じ場にいると、誰が決めたわけではないのに方向性が決まっていきそうな気がします。それこそみんなでこっくりさんをやっているような……?

らんち これはインスタンスに限らずどのCGMにも言えると思う。CGMにはサービス自身を擬人化したような利用者の集団で形成された共通の人格があって、投稿されるコメントや作品はその人格の一部が表に現れたもの。表には現れない人格というものがありそう。例えば僕らは今会話しているけれど、みんなが同じことを言っていても考えていることは違う。会話がコメントや作品、人格がサービスの空気に当たると思う。自分で言ってて分からなくなってきた。

なるがみ 集団的無意識によるインスタンスの擬人化?(笑) friends.nicoがニコるを実装したり、Pawooがピクシブとの連携を強化したりと、オープンソース故にユーザーが欲する機能を運営が独自に実装していくことで、さらに住民の住み分けは加速していきそう。他の業界と違うのは、インスタンス間で競争にはならなさそうなこと。平和な世界だ。

mstdn.jpの今後

なるがみ mstdn.jpは今後独自拡張をする予定はあるの?

ぬるかる ありません。各インスタンスが独自機能を付けていく中で、バニラ(標準機能だけ)であることをmstdn.jpの個性にしていきたいなと。

なるがみ ぬるかる君がドワンゴに入社しても、mstdn.jpはぬるかる君のサービスであって個人の管理下にあるよね。friends.nicoとマージしたりするの?

ぬるかる これも今のところありません。ドワンゴとの協力体制はこれから模索していきますが、削除対応やユーザーへの対応などの運営面について助力してもらったり勉強ができればいいなと考えています。mstdn.jpのユーザーにとって不利益になることはやりません。


もしかすると冒頭のケモノ議論をまとめたほうが有益だったかもしれない。いつかまとめるかも。
個人的にはMastodonは一過性のサービスにしかならないと思っていたが、いまやfriends.nicoをTwitterより見ている。オフィス下にあるセブンイレブンの特価情報が流れてきたり、なんだがドワンゴ時代の社内Slackを思い出した。