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多くのオタク向けICOが中間搾取を排除どころか採用している

クリエイターの仮想通貨元年

本日は年の瀬12月31日、2017年もあっという間でしたね。
今年の私事を振り返ってみると、法人を設立したり、取材を受けたり、商業書籍を監修したら担当編集がミスして発売日2日前に発売延期になったり、なかなかできない体験が多々あった刺激的な年でした。
巷ではビットコインを始めとする仮想通貨の普及が爆発的に進み、電車に乗れば仮想通貨取引所のCMが流れ、テレビを見れば「億り人」なる個人資産家達が特集され、喫茶店に行けば隣の席で奥様方がビットコインの買い時を相談していました。
今年は投機商品としての側面に注目した中間層が大量流入した年と言えるかもしれません。

ことクリエイター界隈では、ビットコインよりもモナコインの話題が多く見受けられました。
Monappyやtipmonaを始めとする有志が運営するWebサービス、コミュニティを使った投げ銭文化がイラストレーターの間で広く利用され始めたり、1MONA2000円まで暴騰したり(少し前までは数円の価値しかなく「ニートのおはじき」と呼ばれていました)、ゲームデザイナーのTANAKA_Uさんが突然210万円相当のモナコインを投げ銭される事件が起きるなどありました。
Zaifを始めとした国内大手取引所がいち早く取引銘柄にモナコインを加え、金融庁のホワイトリストに載ったことも利用拡大に一役買っていると思います。

そのような流れを見てか、11月頃からサブカルをターゲットにしたアニメ、コスプレ、グッズなどのクリエイター支援を謳うICO(以下、オタク向けICOと呼びます)が大量に登場しています。
私は日本だけがターゲットになっているICOについて懐疑的です。
今回のオタク向けICOも多くが、蓋を開けてみるとクリエイター支援どころか中間搾取の構造をバッチリ実装しており、年末に多くのオタク向けICOのプレスリリースが打たれたことで危機感を感じ、慌てて大晦日にこの記事を書いています。
この記事では、オタク向けICOの問題点について解説します。少し長いですがクリエイターの方々には是非読んでいただきたいです。

ICOとは

そもそもICO(Initial Coin Offering)とは、資金調達をしたい企業が新しい仮想通貨を発行し、その仮想通貨を発行主である企業が自由に定めた価格で直接個人に販売し、短期間でまとまった資金を得る手法、またはその仮想通貨のことを指します。
既存の仮想通貨のほとんどがソースコードを公開しており、そのソースコードを持ってきてラベルを張り替えるだけで誰でも簡単に新しい仮想通貨を発行することができます。今では新しい仮想通貨を1クリックで発行するWebサービスも存在することから、仮想通貨発行の障壁はないに等しいでしょう。
株式におけるIPO(Initial Public Offering、新規上場株式)と比較されることが多いですが、証券取引所の厳しい審査を経て売買されるのではなく、発行者が直接個人に販売し(売却は仮想通貨取引所に上場するまで原則できません)、株式における議決権のように出資者が企業に対して何の法的拘束力を持たないことから、資本力のない企業でも簡単に高額の資金調達ができるメリットがあります。

ICOを行う際にはホワイトペーパーと呼ばれる、その仮想通貨のアドバンテージや今後の計画、マニュフェストを記した書類を公開します。ホワイトペーパーがICOの初期の価値を決めていると言っても過言ではありません。
残念ながらホワイトペーパーが実は絵空事で、売るだけ売って失踪する詐欺行為(これをSCAMと呼びます)が世界的に頻発しており、お隣の韓国では仮想通貨自体は合法でもICOを違法化しており、全世界的にICOを規制する流れになりつつあります。

全てのICOが総じて詐欺という訳ではなく、例えばICOを実施するためのプラットフォームの成功例は存在します。
実施する企業が、失敗すれば信用が地に堕ちることを覚悟した上で、IPOと等しく高度なリスクマネジメントと投資家へのケアが必要であるということです。

オタク向けICOの疑問点

多くのオタク向けICOが、ICOの中核であるホワイトペーパーが公開されていないにも関わらず、プレスリリースだけ12月最終営業日に滑り込み配信しており、どれもブロックチェーンに言及していることから、話題性だけを重視していることが伺えます。
プレスリリースの概要を読み解くと、オタク向けICOを用いたクラウドファンディングやコインを流通させるための新しいWebサービスを開発することで、クリエイターと消費者を直接繋げ、クリエイターを直接支援できるような趣旨の内容が書かれています。
その程度であれば現金やKICKSTARTAER、既存の仮想通貨で実現できるのに、なぜわざわざ仮想通貨を新規に発行する必要があるのでしょうか。

ブロックチェーンなのに中央集権?

多くの仮想通貨で採用されているブロックチェーン技術には様々なメリットがありますが、法定通貨と比較した際の最大のアドバンテージは非中央集権にあると考えます。
利用者同士が台帳の正当性を確認する分散型ネットワークによって、日本円における日本銀行のような中央管理局(運営)が存在せず、原則として特定組織から監視、圧力、影響を受けません。
多くのオタク向けICOが、ブロックチェーンを推していながら事実上の中央集権となっており、プレスリリースやインタビュー記事を読む限りでは、発行主または関係企業が運営となって、コインの販売所やクラウドファンディングサービスの開発を行うような図表を掲載しています。
ネットビジネスにおいて最も堅実に利益をあげる方法がプラットフォーム(運営)になることです。システムの元締めになることで全利用者が何か行動する度に手数料を徴収することができ、料率によりますが、これは現在までクリエイターが苦しめられてきた中間搾取の典型例と言えます。
中にはモナコインと比較して有用性を語る記事がありましたが、運営が存在せず非中央集権を維持しながら、コミュニティの有志によって様々なサービスが立ち上がり、ユースケースの拡大によって価値を高めてきたモナコインと、運営が一方的に価格を設定しサービスを独占する多くのオタク向けICOでは全く性質が異なります。

運営が最大の仕手集団になる可能性が否定できない

仮想通貨は株式とは異なりインサイダー取引に関する法的規制がありません。プラットフォームは、例えば有名企業や大型作品でのコイン導入など、事前にコインの価格に影響を与える情報を入手できます。
仮に運営に倫理観がない場合、そのタイミングで売却、購入を行えば、情報が莫大な利益に変わるでしょう。運営が最大の仕手集団とあっては、投資家は為す術がありません。
投機商品としては最悪で、ユースケースも運営が決めるとあっては、コインの価値の向上を望めません。

クリエイター自身がICOの発行主となる場合

f:id:nalgami:20171231185145j:plain ©︎ 「C」製作委員会

クリエイター自身が作品プロジェクト単位でICOを発行する場合はどうでしょうか。これは価値の維持という点から問題が発生します。
例えばアニメの制作費を集めるためにICOを実施する場合、製作終了後に情報更新が終了し、コインが無価値となる可能性があります。
取引時では出資者同士でコインの押し付け合いのババ抜きが始まり、買い板が消滅、取引量がほとんどなくなることで、すぐに取引所から上場廃止となるでしょう。
出資者が見返りを求めないパトロンしかいないならば良いのですが、取引所に上場し売買が可能になることを期待して購入する出資者が多くいるはずです。
それならば、ホワイトペーパーに取引所への上場を認めないと記すべきです。と言うよりは、KICKSTARTERやCampfireで良いですよね。

中間搾取を避けるために

せっかくクリエイター支援のつもりで購入したコインが中間搾取では誰も報われません。私は以下のようなオタク向けICOには気をつけるようにしています。

  • クラウドファンディングを謳っている。
  • ホワイトペーパーやプレスリリースの本文、図表に運営の文字がある。
  • そのコインでしかできないことがない。(現金やSQL、既存の仮想通貨で良くね?)

クリエイターと仮想通貨の付き合い方は今まさに模索されている最中です。
私としては、定価ないし無償の作品にプラスアルファの価値を消費者が認めた時、それを投げ銭やコミッションという形で、仮想通貨が一役買うと信じています。
作者が提示した一律の料金を払うと良い作品が見られるという現在から、良い作品を作った結果上限なくたくさんのお金が作者に入る仕組みが求められていると思います。