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Entyに潜む「同人の新しい売り方」のリスク

この記事はTumblrから引っ越ししてきたものです。

追記
この記事について別の立場からご説明されている記事がありましたので、併せて読んでみてください。
Entyリスク指摘記事の矛盾が気になった。
両方の記事とも、利用しようとする本人達がリスクを検討して最終的に使うか否か決めるべきという立場に違いはありません。
追記終わり

「本を作って売る」以外の新しい選択肢

最近Enty(エンティ)というWebサービスがイラストレーターや同人漫画家さんの間で流行りつつありますね。Entyはパトロンサービスと呼ばれるもので、ネット上の不特定多数から資金を出資してもらうクラウドファンディングの一種です。

クラウドファンディングで世界的に有名なKICKSTARTERはプロダクトやイベントなどのモノに対して単一的な資金出資を呼びかけるのに対し、Entyはクリエイターやアーティストなどのヒトを支援するために継続的な資金出資(月額課金)を呼びかけます。

個人事業主のイラストレーターや漫画家さんは会社員やアルバイトとは異なり、モノを完成させて初めて金銭が発生する完全成果報酬型の収入体系です。
会社が収入を保証してくれるわけでもなく、自分の腕だけで食べていく厳しい世界です。
成果に関わらず毎月(少ないながらも)一定の金額を得ることができるパトロンサービスは、収入の多角化をもたらし、延いては生活を安定させることに繋がると思います。

私も「本を買う」以外に好きな作家さんを支援する手段が増えることは嬉しいですが、Entyには現状3つの改善して欲しい点があり、ここに書きたいと思います。
※ あくまで個人の意見や解釈であり、EntyやEntyに出店する作家さんを批判するものではありません。

Entyが抱えるリスク

クラウドファンディングはファン活動の範疇を逸脱する

二次創作の同人活動がファン活動としてある程度コンテンツホルダから黙認されているのに対し、クラウドファンディングは明確な商業行為、「やりすぎ」としてコンテンツホルダから敵視される傾向があります。

同人誌即売会においては、二次創作の同人誌を製作・発表するというファン活動を行い、その活動の副次的な結果として収入を得てしまうケースもあるかと思います。
コンテンツホルダも年間数十万冊と発表される自社コンテンツの二次創作物について、いちいち売上の数字(そもそも作家しか知り得ません)を追ったり、偶発的に儲かってしまった作家からロイヤリティを徴収するようなことはしません。
徴収できる金額よりもリスクやコストが上回るからです。

商業コミック市場が右肩下がりにも関わらず、同人市場は年20億円の増加ペースで成長を続けており、コンテンツホルダがその規模や影響を無視できなくなっているのも事実です。
面倒くさいことになる前に、自社の商品化権と競合しそうなメディア(あるいはジャンル)を事前に規制するガイドラインを発表するコンテンツホルダもいれば、個人が行うほとんどの二次創作を明示的にOKにしたコンテンツホルダも登場しています。
最近ではコンテンツホルダが二次創作作家をスピンオフやアンソロジーで登用したり、二次創作ゲームに正式なライセンスを与えて商業ゲームとして発売するなど、二次創作の人気を積極的に原作に取り入れようとする試みも散見します。

話が逸れてしまいましたが、コンテンツホルダは同人活動をファン活動として黙認、あるいは活用している一方で、クラウドファンディングは最初に資金出資(金を集める)がありきであり、コンテンツホルダにとってはその場に自社のコンテンツが使われていると、金儲けの「客寄せパンダ」として使われているように見えてしまいます。

Entyやダウンロード販売サイトでは、具体的な販売数がWebページ上で公開されており、容易に売上が計算できてしまうのも悪く見えてしまう要因です。
そう考えると直接的に二次創作物を対価として取り扱わなくとも、最近Entyで散見する、「オリジナルの同人誌の製作について支援をお願いします。対価として二次創作含めた過去の同人誌を見放題にします。」もどうでしょうか。

日本ではクラウドファンディング自体が最近流行りだしたばかりなので、二次創作が絡んだ大きな事件はほとんどありませんが、例えば東方Projectの二次創作ゲームの開発資金を海外のクラウドファンディングで募集して、原作サイドから止められた事件がありました。

もし私が漫画編集者だとして、あるコンテンツのコミカライズを担当していただく漫画家さんを探しているならば、自社他社関係なくEntyで二次創作を扱っている作家さんは炎上リスクありとしてアタックリストから除外します。

資金決済法(資金決済に関する法律)を根拠とする規制

クラウドファンディングのプロジェクトは出資者が受け取れる対価によって3つの種類に分類されます。

  • 出資者が一切の対価を受け取らない寄付型
  • 出資者が何らかの物品やサービスを受け取ることができる購入型
  • 出資者が株式などを購入し出資額に応じて事業の利益が出資者へ分配される投資型

Entyにおいては寄付型または購入型のどちらかだと思います。
問題なのは寄付型のプロジェクトで、日本では資金決済法によって非商用での個人間送金が禁止されています。
Entyにおいては「支援していただけるとお返しはできませんが、作者の電気代が払えます。」のような対価のないものです。
例外として仲介業者が資金移動業者として金融庁に登録されているならば、100万円以下の少額送金については個人間送金が認められています。
身近な個人間送金としてLINE Payがありますが、あれはLINEが資金移動業者として登録されているから実現しているものです。
私が調べた限りではEntyの運営会社である株式会社onetapは資金移動業者として登録されていないようです。
根拠: 金融庁 資金移動業者の一覧

ド素人の法解釈なので本当に違反しているかどうかは分かりませんし、直ちに株式会社onetapやEntyに出店している作家さんが逮捕!なんてことはないかと思いますが、知らぬ間に資金決済法に違反している、または新興ベンチャーの株式会社onetapがこの事実を把握せず対策をしていない可能性があります。

運営会社

Entyの運営会社である株式会社onetapは2015年に設立された新しい会社です。
株式会社onetapとしてのコーポレートサイトはないようで、Entyの特商法に関する表記の問い合わせ先がGmailというのも使う側としては不安がよぎります。
追記
運営の人が見てくれたのか、特商法に関する表記の連絡先は修正されました。
追記終わり

今はもう掲載が撤回されていますが、Entyを紹介するページのイメージ画像にニトロプラスのオフィスの写真が転載されていました。
カメラマンがattribution(著者名など)を表示する条件でクリエイティブ・コモンズライセンスのもとで公開していた写真ですが、Entyではattributionが表示されていませんでした。

そして私が最もonetapに不信感を抱くのが、一度プロジェクトに出資すると出資額の変更や取り止めを行うために運営にメールを送る必要がある点です。
それぐらいサービス上でできるようにしろよ!と思うのですが、これだと休眠会員を狙っているようにしか見えません。

追記
運営の人が見てくれたのか、出資の停止機能がサービスに実装されました。
追記終わり

以上が個人的にEntyに改善して欲しい点です。

オリジナルかつ対価がある(限定イラストの視聴権の付与など)プロジェクトにすると良いと思います。